GaNの基礎物性評価

GaNの基礎物性はまだ十分に解明されていません。特にパワー半導体応用を考えると高電界物性が重要となります。これまで我々は、独自の評価方法を開発することで、GaNのインパクトイオン化(衝突電離)係数の評価に成功しています。継続して評価を進めるとともに、結晶方位依存性などについても解明を進める予定です。

イオン注入によるGaNの局所ドーピング技術の開発

GaNの特性を最大限引き出すデバイスを実現するためには、自由自在に任意の位置にドーピングを行う技術を開発する必要があります。その手法としてイオン注入とその後の活性化アニール(焼きなまし、結晶に熱を加えて原子の運動を盛んにしてイオン注入で乱された結晶性を回復する)がありますが、GaNにおいては高温のアニールが熱分解のために困難であることや、欠陥のクラスタリングなどが活性化を阻んでいます。本研究室は、UNIPRESS(ポーランド)と共同研究を行うことで超高圧アニールを開発し、イオン注入したMgの高い活性化率を世界で初めて実証しました。本研究室では、超高圧アニールのデバイス応用に向けて、超高圧アニールによって活性化したMgイオン注入p-GaNの電気的特性評価や超高圧アニールを用いて作製したデバイスの特性評価を行っています。

GaNの点欠陥の基礎解明

パワーデバイスの作製には結晶成長、イオン注入、エッチングなどを含めた数百工程のプロセスが必要です。しかし、これらのプロセスを通じて結晶を構成する原子が本来の位置からずれたり、不純物原子が結晶中に入ったりすることで「点欠陥」と呼ばれる結晶の乱れが生じてしまいます。点欠陥はデバイス作製におけるドーピング濃度の制御性低下やデバイス特性劣化の原因となりうるため、点欠陥の低減・電気的特性の理解が必要不可欠です。一方で、GaNの点欠陥評価における研究の歴史は浅く、点欠陥の特性や起源などの多くは明らかになっていないのが現状です。これに対し、我々はホール効果測定や深い準位過渡容量分光(DLTS)法という方法を用いた点欠陥評価に取り組んでいます。

GaN縦型パワーMOSFETの開発

GaNを用いたデバイスの1つとして、GaN縦型パワーMOSFETがあります。このデバイスは大電流を扱うことに優れており、新幹線や電気自動車への応用が期待されています。しかし、GaN縦型パワーMOSFETの作製には様々な課題があります。例えば、良好な界面および高い信頼性をもつ絶縁膜が確立されていないこと・継続使用時に安定した性能を発揮する信頼性が欠けていることが挙げられます。

ゲート絶縁膜の最適化

GaN結晶中では原子は周期的な配列となりますが、絶縁膜/GaN界面ではその周期性が崩れ、界面トラップが生じます。これらのトラップがキャリアを捕獲することで、チャネル抵抗増加の原因となってしまいます。一般的にこのトラップを除去するためにアニールを施しますが、絶縁膜が劣化し、長期的な信頼性が損なわれます。本研究室では、ゲート絶縁膜の最適化を目指し、様々なアニール条件(温度、時間、圧力)における絶縁膜/GaN界面の評価を行っています。

閾値電圧の変動抑制

GaNの物性を最大限引き出すデバイスを実現するためには、実際の回路での使用時に安定して期待された性能を発揮する信頼性が必要になります。中でも、スイッチングで重要なしきい値電圧(オンオフを切り替える電圧)は一定であることが望ましいですが、GaNでは欠陥の影響などでしきい値電圧が変動してしまいます。そのため、実際の回路を想定した動作条件下でのしきい値電圧変動を測定し、それらを様々なサンプルで比較することで、しきい値電圧変動のメカニズム解明に向けて研究に取り組んでいます。また、最終的にはしきい値電圧変動を抑制できる作製プロセスを提案していくことが目標となっています。

GaN系高電子移動度トランジスタの開発

GaNに対してAlGaNなどの異なる材料を接合すると、接合界面に高密度かつ高移動度な電子が誘起されます。この電子を利用した電界効果トランジスタが高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor, HEMT)です。GaN系HEMT は、移動体通信基地局や気象レーダー等の高周波デバイス用途に加えて、データサーバやUSB充電器等のパワーデバイス用途としても商用化が進んでいます。一方で、脱炭素社会の実現や次世代移動体通信システムの普及に向けて、GaN系HEMTに要求される性能も益々高くなってきています。我々のグループでは、GaN系HEMTの更なる性能向上に向けて、新規デバイス構造・デバイス作製プロセスの開発に取り組んでいます。また、新たな応用領域として、GaN系HEMTのマイクロ波電力伝送応用の研究も行っています。