課題1 半導体結晶の見た目

半導体ウエハ(円盤状に加工された半導体の単結晶)の見た目は材料によりまちまちである。Siは銀色の鏡のようでありGaPは半透明のオレンジ色GaNは無色透明である。このようになる理由を固体物理学で説明せよ。それぞれの半導体材料のバンドギャップはネットで調べよ。

須田の固体電子工学の講義動画(ここにかなりの答えがあります)とキッテルの固体物理学の教科書の範囲で答えてもらえばOKです。さらに詳しく理解したい人は須田の名古屋半導体塾の講義動画も見てください。

上記で説明していない重要な概念として反射率があります。物質の屈折率は、光吸収がなければ実数です。反射率を調べてみましょう。透明だと反射しないと思うのは素人考えです。(透明なガラスに向かって立つと、その先の景色が良く見えますが、うっすら自分の姿が写りますよね。わずかな反射があるということです。)光吸収があると屈折率は複素数n+ikで表されます。その時の反射率も調べてみましょう。

ネットを盲信してはいけませんが、ネットで入手可能な信頼できる情報は最大限活用しましょう。半導体の反射率、吸収係数などのスペクトル(各波長におけるデーター)は容易に入手可能です。


課題2 MOSFET

MOSFETは、ゲート端子の電位(実際にはゲート-ソース間電圧Vgs)により、ソース端子とドレイン端子の導通を制御できる、ある種の電子的なスイッチである。また、MOSFETにはnチャネル型とpチャネル型がある。また、エンハンスメント型(ノーマリオフ型)とディプレッション型(ノーマリオン型)がある。

*nチャネル型MOSFETの構造図(デバイス断面図)を示し、オン・オフの動作の原理を説明せよ。(動作原理をよくよく考えて理にかなった図にすること。)

*同様にpチャネル型MOSFETの構造図を示せ。nチャネルとpチャネルではどのように違うかを図と文章で説明せよ。

*現在のエレクトロニクスの根幹を支える大発明、CMOSロジック回路(CMOSインバーター回路)について回路図で説明せよ。どのようなMOSFETをどのように組み合わせているのか?どのような利点があるのか?

*上記の回路図をSi半導体結晶上にどのように作り込んでいるのだろうか?CMOSインバーターの構造図(断面図)を示して説明せよ。

ネットですぐに答えは見つかりますが、自分で本当に理解して答えることが重要です。複数の情報を参考にしてでいろいろ勉強して答えてください。

ほとんどすべての半導体工学の教科書にはMOSFETの動作について詳しい解説があります。名大生は名大の電子図書館から(高価な!)半導体の教科書(英語ですが…)を無料でダウンロードできます。Marius Grundmann著 The Physics of Semiconductors (Springer)がおすすめです。ダウンロードするには名大の学内LANで接続するか、名大IDを用いたプロキシサービスを利用する必要があります。


課題3 pn接合の空乏層

pn接合は半導体デバイスの基本中の基本です。特に空乏層の振る舞いは非常に重要で、当研究室が得意としている半導体の欠陥評価手法であるDLTSやICTSなどはステップ電圧変化に対する空乏層の過渡的な振る舞いに着目した方法ですし、高精度のホール効果測定評価やデバイスの解析などでも空乏層の話がついてまわります。

まずは固体電子工学の講義動画をしっかり見て復習してください。式を覚えるのではなく考え方を身に着けてください。「アクセプタ密度Na、ドナー密度Ndのpn接合にVの電圧をかけた時の空乏層幅Wは?」と試験で聞くとほとんどの人が正解を答えます。この式はもちろん重要ですが、どのような理由、導出でこの式になっているのかを心底理解することが重要です。たとえば実際の研究ではNdが一定ではなく深さ方向で変わるなどいろいろなバリエーションがあります。そのようなときに、どのような結果になるかなどをすぐに図を書いてイメージできないと、研究を遂行する上で使える知識とは言えません。

講義動画で説明した通り、電圧に対して空乏層幅を求めるのは面倒で、むしろ空乏層幅がこうだった時、結果として電圧はどうなるのかを求める方が自然です。その時に使う式は、たった二つ。「ガウスの法則」と「電界と電位の関係式」のみです。あとは高校数学レベルの微積分です。

勉強が終わったら今年の大学院のパワーデバイス工学特論の授業で出した小テストを解いてください。なお材料はGaNを想定します。比誘電率10.4として計算してください。ウォーミングアップ(cmやm、μmの換算間違いを防ぐための)例題が用意されています。基本問題の問1はほぼ全員が正解でしたが応用問題の問2はほとんどの人が不正解でした。答えを出した後じっくりじっくり考えて矛盾がないか考えてみれば間違えないはずです。じっくり考えてください。(関数電卓やパソコン活用してもらってもOKです。)

研究室に入ると、自分のテーマに関係することについてたくさんの勉強をしなければなりません。参考になる本や論文などは紹介してもらえますが、基本的に自分で調査、勉強して、いろいろ勉強したうえで引っかかっていることを上級生や教員に聞くという勉強スタイルです。その予行演習だと思ってやってみてください。勉強も意味も分からずに勉強するのではなく、自分のやりたい研究のための勉強とわかってするのでモチベーションは違うと思います。

半導体工学は、半導体物理という基本原理に立脚してさまざまな役に立つデバイスを作り出す学問です。ダイオード、トランジスタにはじまりCMOS、CCD、イメージセンサ、太陽電池、パワーデバイスなど様々なものが生み出されてきました。

時計やからくり人形は、ばねやてこ、歯車などわかりやすい物理(力学)に立脚していますが、半導体のからくりである半導体デバイスは、電磁気学や半導体物理に立脚しています。バンド図とか空乏層などを直接目で見ることはできません。電気的特性や光学特性から間接的に推測するしかありません。でも研究を何年も続けているとそれが本当に体感できるようになってきます。それをみなさんに目指して欲しいと思っています。


課題4

  • 研究室を志望した理由
  • 研究室でやりたいこと・身に着けたいこと
  • 中学・高校・大学で勉強以外に頑張ったこと クラブ活動、趣味・特技、バイトなど

をA4 1枚にまとめてください。箇条書き程度でも良いです。面接時の話題のきっかけ用です。


課題は以上です。課題1~3については少なくとも10時間以上はかけて欲しいと思っています。

課題については面接時に説明を求めます。みなさんが自分で半導体の勉強ができるかどうか力を見るためのものです。正解を求めているわけではありません。回答にミスがあっても面接時に議論をしながら間違いに気が付き訂正できけば大丈夫です。(研究室に入ってからもちろん役立つ知識です。)

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