卒業研究配属希望を考えているみなさんへ

須田 淳

研究者はクリエイターだ!

文系の人と話していると理系の研究者はきっちりと話が決まっていて理詰めですね、と言われる。もちろん理詰めの側面は当然ありますが、むしろ研究者とは創造者、クリエイターだと私は思います。文系の人には、確かに入試の物理や数学は答えがただ一つで理詰めです。でも工学部で扱う諸問題は、答えが一つとは限らず、そもそも答えがあるかどうかもわからない問題に取り組むので、その問題への切り込み方や解決方法は創造力や発想が大切なのですよ、と説明します。だいたい、きょとんとされて、「はあ、そうなんですか」と言われますが。

画家はキャンバスに絵具で自己を表現しますが、理系研究者は自然科学と論理的思考、実験(評価分析や試作)によりで自己を表現するのだと思います。まだ誰も気付いていない新しい現象の発見、皆が頭を悩ませている現象の解明、誰も思いつかなかったような新規デバイス構造やデバイス作製手法の提示など、これをクリエイティブな活動と呼ばずして何と呼ぶのでしょうか?工学とは人類の幸せにつながることを創造していく、素晴らしい学問なのです。

レオナルドダビンチは芸術家でもあると同時に土木や機械工学の偉大な発明者でした。当時の科学技術はシンプルでしたので芸術と工学は隣接した分野だったのだと思います。

芸術には絵画、彫刻、書などいろいろあり、それぞれにさまざまな流派があります。当研究室は半導体デバイスを対象にして、半導体物理学、半導体デバイス物理学に基礎基盤をおいてクリエィティブな活動を行う研究室です。

当研究室は、手持ちの機材でできることは労を惜しまずにとことんやる、深く広く考えを巡らせて徹底的に頭を使う、そしてそれを論理的に、かつ、分かり易くまとめてプレゼンテーションするということに重点を置いています。研究をする方も、指導する側も大変ですが、研究室に来てくれた学生たちはめきめきと成長して、修士を修了するころには立派な研究者の卵となります。学生のみなさんが、思いついた実験を面倒くさがらずに一生懸命やってくれたおかげで発見できた現象や、得られたデーターを失敗とは思わずそこから何かひねり出してやろうと努力して生まれた成果が数多くあります。教員がアドバイスしたことにとどまらず、その一歩、二歩先まで自分で考えてやる学生が当研究室の誇りです。

研究とはどういうことなのか

科学系のクラブで活動していない限り、研究室配属時点のみなさんが研究について具体的に想像することは難しいと思います。学生実験で研究の一端は味わえますが、やはり学生実験です。

研究には正解はありません。テーマによってはできるかどうかさえわからないものもあります。研究の結果、できないことを証明することになるかも知れません。大学教授は何でも知っているかと勘違いしている学生さんが多いですが、研究に関しては、教授もどうなるかわからないでやっているのです。(他の教授は分かっていて私が分かっていないだけかも知れませんが…。)ただし、長年の経験の勘があって、これはこうすれば突破できるかもとか、ここに糸口がありそうだとか、いろいろ考えてはいます。でも、その考えが当たるかどうかは分からないのです。それほど大したことない考えだと結構当たりますが、すごいアイデアであるほど、どうなるかわからなくなります。

まずは皆さんに研究がどういうものなのかを分かってもらうのがが大切なことです。卒業研究では比較的こじんまりとした分かり易いテーマを用意しています。いってみれば詰将棋的なテーマで、こうやって、ああやって、この部分で頑張れば何か結果が出そう、というテーマです。そこで研究者の最初の修行をしてもらいます。その次は修士2年間をかけて取り組むような、少し難しく、また、完全には展開が読めないテーマに挑戦してもらいます。

修士をやり遂げたら、研究者の「卵」と言える人材になっていると思います。じゃあ、研究者の「ひよこ」になるにはどうしたらよいか?博士課程(博士後期課程)に進学して、大きなテーマに自分の力で立ち向かうことが必要になります。博士を取った人は、自分で考えて研究を進められる人です、研究者のひよこ、いや、博士の学位を名大から授与される頃には巣立つ若鳥になっていることでしょう。

せっかく世界的にトップレベルにある名古屋大学に入ったのですから、研究者の卵で終わらずに、若鳥になって羽ばたいて欲しいと思っています。昔の企業は余裕があったので、大学の先生のような室長がいて、研究者の卵をしっかり若鳥に育ててくれました。なので、昔は「優秀な修士の学生を送り出してもらえれば我が社でしっかり育てます」というスタンスだったのですが、今はなかなかそうはいきません。むしろ、しっかりした研究室で博士課程の研鑽を積んだ人材を企業も求めています。実際に私の教え子の多くが博士学位取得後、企業に就職し、研究・開発部門あるいは基礎研究所で勤務しています。